呉文光&章梦奇 東京イベント同行記          

呉文光

中国におけるインディペンデント・ドキュメンタリーの先駆けであり、常に意欲的な活動を続けている呉文光(ウー・ウェングアン)と、その弟子のひとりで草場地ワークステーションで創作活動をしている章梦奇(ジャン・モンチー)が、このたびnew「CINEMA塾」の招待を受け、セルフドキュメンタリーの講義に参加するため、9月26日から数日間来日した。今回、東京での数日間に同行したので、その模様をレポートしよう。

 

彼らが来日した26日夜に行われた歓迎会に足を運んだ。今回の企画の関係者をはじめ、呉文光の古くからの友人などがたくさん集まっていた。呉文光は流暢な英語で会話している。映画を撮り始めた頃、彼はあまり英語を話せなかったようだが、映画祭などで海外を飛び回るうちに学習して身につけたそうである。中国でインディペンデント映画を撮る人のうち、国際的に評価の高い人には、英語が話せる人の割合が高い。これはプロデューサーなどがいない中で、監督が直接海外にアピールできるかどうかという事と無関係ではないだろう。呉文光は日本に来るのも10回以上になる。90年代は山形国際ドキュメンタリー映画祭の常連だったし、その後もフェスティバル/トーキョーなどで何度も来日している。今回、彼は時間があれば京都観光へ行きたいと言っていたのだが、あいにくスケジュールの都合で行けず、残念がっていた。

章梦奇は3度目の来日。これまで東京ではあまり時間の余裕がなかったということで、今回はいろいろ見てみたいとのこと。中でも日本の食べ物を気に入っているようだ。ちなみに彼女も英語を勉強中で、意思が通じる程度には会話ができるようになっていた。

 

new「CINEMA」塾

27日は昼から千代田区のアテネフランセ文化センターでnew「CINEMA塾」が行われた。new「CINEMA塾」とは、セルフドキュメンタリーで知られる原一男監督が連続講座として4月から毎月開催しているイベントである。毎回セルフドキュメンタリー映画を鑑賞し、長時間かけてゲストを交えたトークや受講生との質疑応答を行いながら、ドキュメンタリーや〈私〉のあり方について考えるというもの。前回の呉文光からの投稿記事にあるように、呉文光はセルフドキュメンタリーに興味を持った2010年ごろに、原一男監督を北京に招いて特集上映を行い、彼の初のセルフドキュメンタリーとなる『治療』を完成させている。そうした縁で、今回のnew「CINEMA塾」では呉文光と章梦奇が招かれたのだった。

この日は『治療』の上映と呉文光のトーク、『三人の女性の自画像』の上映と章梦奇のトーク、更に両監督を交えたトークに受講生とのQ&Aがあり、おまけに私からも中国の上映状況に関する報告をさせていただいた。全部で6時間を超える盛りだくさんのイベントであった。ここで語られた内容については、いずれnew「CINEMA塾」のほうから発表されると思うが、ここでは私がそばで見ていて感じたことを幾つか挙げてみる。

・『治療』の上映をずっと観ていた呉文光は、会場が明るくなると同時にそばにいた私に対して、「何度観ても面白い。自分で作った他の映画は観る気にもならないが、これだけは違う」「社会問題を扱ったドキュメンタリーも必要ではあるけど、ドキュメンタリーはそれだけじゃない。俺が観たいのはこういう映画だ」と言った。これまで新しいテーマに挑戦するたびに、過去の自分の作品を「ゴミ」と呼んで否定してきた呉文光が、これほど『治療』を肯定するのには驚いた。

・原監督とのトークの中で、「2010年に北京で原監督の特集をやってから、中国でセルフドキュメンタリーを撮る人が非常に増えている」と話していた。特集上映の影響が如何ほどかは分からないが、中国でセルフドキュメンタリーが増えているのは事実である。以前であれば、作家はドキュメンタリーを撮るべく高価な機材を求めたわけで、そこまでして撮りたい大きなテーマが先に存在することが多かった。今は機材も容易に手に入るので、漠然と映画が撮りたいと思い、まずは身の回りのことを撮ろうと考える若い人も増えている。日本とも似た傾向なのかもしれない。

・章梦奇は客席で話を聞いているときも、舞台に上がったときも、常に何かメモを取っていた。後に記録をまとめるためではなく、創作のヒントになりそうなことをメモしているらしく、とても熱心だった。ワークステーションで日常的に討論をしているために、癖がついているようだ。

・Q&Aのとき、受講生からの「日中の関係改善のためには何をすればいいか?」という質問に対し、呉文光は「中国人をたくさん呼ぶことだ」と話していた。彼は何度も日本に来て多くの日本人に会う中で、少しずつ日本が好きになったのだと言う。メディアを通じてではなく、人と人が向かい合った交流こそが重要だという意見は、全くそのとおりだと思う。