【東京フィルメックス上映記念】『シャドウデイズ』と趙大勇

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当映画祭で『ゴーストタウン』『歓楽のポエム』を紹介してきた趙大勇(チャオ・ダーヨン)が、新作『シャドウデイズ』で第15回東京フィルメックスにやって来る(予定)。『シャドウデイズ』をより楽しむために、当映画祭だけが知るとっておきの情報をお届けしよう。

 

【あらすじ】

仁偉(レンウェイ)は、恋人の石榴(シーリュウ)を連れて雲南省の僻地の町へやって来る。理由はわからないが、何かに追われているようだ。この町では仁偉の叔父が役場で働いていて、彼はその叔父を頼ってやって来たのだった。いつまで滞在するかも分からない中、仁偉も叔父の仕事を手伝うようになるのだが、その仕事とは一人っ子政策を徹底させるために、二人目以上を妊娠している妊婦を探しては堕胎させるというものだった。淡々と日々の仕事をこなす仁偉と、田舎暮らしに慣れようとする石榴。しかし、やがて二人の運命は町に漂う異様な気配に飲み込まれていくことに……。

 

【監督】

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趙大勇は東北にある遼寧省の出身で、王兵(ワン・ビン)(『鉄西区』『収容病棟』等)や趙亮(チャオ・リャン)(『北京陳情村の人々』等)と同じ魯迅美術学院を卒業している。もともとは画家志望で、卒業後しばらくは北京の円明園付近に住んでいた。当時は円明園といえば、売れない芸術家たちが全国から集まる場所として有名だったところだ。やがて彼は広州市に移り住み、テレビCM制作の仕事を始める。広州はそのころこの分野では最も進んだ都市だった。2005年に上海でCMの仕事をしていたときに、南京路で暮らすホームレスの人々をドキュメンタリーに撮り、『南京路』を発表。それからは専ら映画作りに取り組むようになる。

夫人が雲南省出身ということもあり、雲南省に頻繁に足を運んでいた彼は、怒江流域の少数民族リス族が住む地域に通ってドキュメンタリーを撮るようになる。そこは政府主導による開発で多くの建物が建てられながら、打ち捨てられて廃墟になった町で、それらの建物に人々が勝手に住み着くようになり、不思議な雰囲気を醸し出していた。この地で数年間撮りためた映像をまとめたのが、2008年に発表された『ゴーストタウン』だった。

『ゴーストタウン』でドキュメンタリーをやり尽くしたと考えた彼は、実験映像や劇映画に挑戦するようになり、2010年に広州で『歓楽のポエム』を撮る。しかしそのときもずっと『ゴーストタウン』の町が気になっていた。彼は、映画を撮るならあの町ほどドラマチックな場所はないと思っていた。

彼は、あの町で撮るに相応しいストーリーを考えては、いくつもの脚本を書いた。しかし、予算などの条件が合わず、なかなか撮ることが出来ずにいた。どのストーリーにも共通していたのは、“お化け”が出てくることだった。彼はこの町で、彷徨う死者の魂の存在を感じ取っていたようだ。

やがて、90万元という超低予算ではあるが、出資してくれるプロデューサーが見つかり、彼はスタッフやキャストをゴーストタウンに集めた。2013年夏のことである。

 

【キャスト】

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この映画に出てくる俳優の中で、プロの俳優は若いカップルを演じる梁鳴(リャン・ミン)と李子芊(リー・ズチェン)だけである。

梁鳴は中国伝媒大学で演技を学び、これまでいくつかのテレビドラマに出演している。また婁燁(ロウ・イエ)監督の『スプリング・フィーバー』に出演したものの、出演シーンがカットされるという不運に遭っている。李子芊は中央戯劇学院を卒業し、低予算の映画やCMなどにも出演している。ただ、二人とも名の知られた俳優というわけではない。趙大勇は、友人の作品を通じてたまたま彼らの演技を観てキャスティングを決めたという。

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この映画の中で印象的な演技をしている、仁偉の叔父さん役の劉一(リュウ・イー)は、この映画で初めて演技をした素人だ。実は彼、趙大勇の親戚で、義理の兄にあたる人である。本業は内装業で、普段は海南島に住んでいる。雲南省出身で方言が話せるうえ、イメージがピッタリだからという理由でキャスティングされたのだが、本人もまんざらではなかったらしい。ちなみに、彼は趙大勇が現在制作中の新作にも少しだけ出演している。

 

【撮影】

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予算が非常に少なかったこともあり、撮影はごく少数のスタッフで行われた。現地の安い宿に泊まり、集中的に撮影が行われた。「毎日全員で食事を取ったり談笑したりしていたので、スタッフとの仲は非常に良かった」と石榴役の李子芊は話している。

エキストラを含め、他に出てくる出演者はみな現地の人々である。監督は『ゴーストタウン』の撮影を通じて地元の人々とはすでに良好な関係を築いていたため、彼らもとても積極的に参加してくれたという。

趙大勇の撮影は、ときに何十テイクも撮り続ける。長回しのシーンでも、時間がかかることを恐れずに撮影を繰り返す。本人曰く、そうして俳優を極限まで持って行くことで、殻を破って役になりきった演技を引き出すことができるのだという。そういう撮影は大変ではないかと李子芊に尋ねたところ、彼女は「中国では、俳優が納得できる演技をさせてくれる監督は少ないんです。右を向け、涙を流せ、と監督は要求するけど、なぜそうするのかの説明もない。俳優はただ言われたことをするだけです。でも、趙大勇はちゃんと納得させてくれるし、時にはこちらの意見も取り入れてくれます。とても仕事のしがいがあるし、恩を感じています」とのことだった。中国でこうした撮影が可能なのは、インディペンデント映画ならではかもしれない。

 

【完成後】

今年1月に開かれたベルリン国際映画祭のフォーラム部門で、『シャドウデイズ』はプレミア上映された。フォーラム部門のオープニングとしての上映であり、授賞こそ逃したものの、映画祭期間中に発行された各紙の批評では高い評価を得た。

その後も香港や英国、ブラジル、ドイツなど各国の映画祭で上映されていて、今も監督は各地を飛び回っている最中だ。

なお、中国政府による検閲を受けていないため、中国国内での上映は認められていない。一人っ子政策についての描写は検閲を通りにくいし、幽霊のような“迷信”を扱ったものは検閲を通らないので、この映画が国内で劇場公開される可能性はほぼ無い。

プロデューサーはとても理解のある人で、中国で公開できなくても仕方がないし、海外での配給についても特に関わらないと言っている。もちろん、少しでも資金を回収できるに越したことはないのだが。

趙大勇は早くも次の作品を制作中で、すでに撮影は終え、現在編集の大詰めに入っている。来年早々には観ることができるかもしれない。こちらは広州を舞台にした群像劇である。