『灼熱』劉姝
それは、焼けるような夏の午前中だった。
私は河南省のとある小さな県で、暑さと悪臭でムッとする道路の端に立ち、バスが来るのを待っていた。私の前を車が通り過ぎるたびに、路面から黄色い砂埃が舞い上がった。私は埃の中で息を吸いながら、ひたすらバスを待ち続けた。
目的地は小さな村だった。エイズ村として有名になったその村は、村人の多くが売血がもとでエイズに感染してしまっていた。彼らはただ黙って死が訪れるのを待っている。北京にいる私の友人が、その村にいるエイズ患者の遺児たちを助ける仕事をしており、私にも手伝える事はないかと考えた末、村で映像を撮ることにした。
車をチャーターする金は無かったので、私は両手で重いビデオカメラと荷物を提げ、肩には三脚を担いで、道端に立っていた。
まったく耐え難い暑さだった。立っている私の真上から太陽が照りつけていて、体中から汗があふれていた。
ついに村へ行くバスがやって来た。ナツメ色をしたワゴン車で、扉を開き放して走っており、そこから髪を黄色く染めて麦の穂のようなヘアスタイルをした若い女が顔を出し、大声で呼び込みをしている。「王屯、王屯へ行く人は乗りな!」
窓越しに車の中を見ると、本来7人乗りのこのワゴン車は小さな客車に改装されていて、もともとの座席は取り外され、より多くの人を乗せられるように折りたたみの小さな椅子を2列並べてある。車中では、2人の男性が椅子に腰掛けているが、まだ多くの席が空いたままだ。
私には選択の余地がなかった。これ以上道端に立ち続けて暑さに倒れたくなければ、この車に乗って少しは涼しいであろう村へ急ぐしかない。私は車に乗り、運転手の後ろの席に腰をかけた。
車はゆっくり前進を続けながら、道端で車を待つ人々を次々と拾い上げていく。しばらく進むと、一人の若い女が立っていた。車と同じナツメ色の半袖シャツを着て、髪をポニーテールにまとめた、知的な雰囲気の女だ。彼女は、例のクールなバス乗務員と値段交渉を始めた。
「王屯までいくら?」
「2元。すぐ出発するよ。まだ席も空いてる。見てごらん」
「1元じゃダメ?1元」
「あり得ないよ。それじゃあ赤字だ。こんなに暑くてエアコンも入れてるんだ。ガソリン代にだって足りないよ」
実際には、この車にはエアコンなんて付いてなくて、中は熱した缶詰のようだった。走り出せばかろうじて熱風が吹き込んでくるが、車が停まって客引きをしているときはまるでサウナだ。もっとも、エアコンがあったところで、これだけたくさんの人が車内にいれば涼しくはならないだろう。この種のワゴン車のエアコンなんて、もともと効きが悪い。
赤い服の女はしばらく悩んでいたが、やがて車に乗り込んできた。ポケットから2元を取り出し、乗務員に手渡した。
これですべての座席が埋まった。車内には十数人の男たちが放つあらゆる体臭が充満している。女性は乗務員と赤い服の女、そして私の3人だけだ。
「席が埋まったんだから、さっさと出発して。まだ客を乗せるつもり?」私は心の中で文句を言った。本来は口に出して乗務員に言うべきだろうが、私には彼女をいらだたせる勇気が無かった。